診療

解熱剤の話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回は解熱剤(いわゆる「ねつさまし」)についてお話しさせていただきます。

 

◎大人とこどもの解熱剤の違い

 大人で発熱がある場合、よく病院ではロキソプロフェン(ロキソニン®)やジクロフェナク(ボルタレン®)などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:エヌセイズと読みます)が処方されます。しかし、小児科では発熱に対してNSAIDsを使用することは基本的にありません(鎮痛目的で使用することはあります)。これは小児ではNSAIDsを一部の感染症に対して使用すると、脳症など重篤な病気の誘因になる可能性があると考えられているためです。

 小児科では、発熱の患者さんには通常安全なアセトアミノフェン(カロナール®、アンヒバ®、アルピニー®など)を処方します(病院によってはイブプロフェン(ブルフェン®など)を処方されることもあります)。

 よく「こども用の解熱剤は大人用に比べて効きが悪い」と言われます。実際アセトアミノフェンはロキソニン®などと比べて解熱効果は弱めですが、安全に使用できることが最優先ですので、ご理解いただければと思います。

 

◎解熱剤はなぜ効くか

 ロキソニン®などのNSAIDsは炎症が起こっている部位にはたらいて、炎症から発熱につながる流れを止めることで解熱効果を示しますが、アセトアミノフェンには炎症を抑える効果はほとんどありません。

 実はアセトアミノフェンがなぜ熱を下げるのかは完全には解明されていません。現在最も有力な考え方は、アセトアミノフェンが脳の視床下部という体温をコントロールしている場所にはたらいて、全身の血管をひろげて体の外に熱を逃がし、体温を下げているのではないかというものです。これらの解熱効果は平熱の時に起こらないという特徴があるので、平熱の時にアセトアミノフェンを使用しても熱が下がることはありません。

発熱のメカニズムと解熱剤の作用

 

◎解熱剤の使用に関するいろいろな噂

 「発熱は体が病気に対抗するために出しているものだから、薬で熱を無理に下げると治りが悪くなる」という意見を言われる方もいらっしゃいますが、解熱剤を使用すると治りが悪くなるというのは本当でしょうか?

 これに関しては過去に大規模な調査が行われ、解熱剤を使うことによって治るまでの期間は長くならない(残念ながら短くもならないのですが・・・)ことが判明しています。また鼻水や咳などの風邪症状が続く期間の長さも解熱剤の使用とは関係ないことが分かっています。

 また、「熱が急に上がると熱性けいれんを起こしたり、高熱で脳がやられるのが怖いから解熱剤を使いたい」だったり、逆に「解熱剤の効果が切れるときに急に熱が上がるから熱性けいれんを起こさないか心配で」と考えられる方もいらっしゃいますが、これについではどうでしょうか?

 まず、熱性けいれんについては解熱剤と関係あるか、についてです。過去には「解熱剤の使用の有無にかかわらず熱性けいれんが起こる可能性は変わらない」と考えられていましたが、最近では「解熱剤を積極的に使用することで熱性けいれんを起こす確率が下がるかもしれない」という報告もあります1)。はっきりとした見解が定まっているわけではありませんが、少なくとも悪影響となる可能性は低そうです。

 次に、高熱による脳の障害を予防出来るかどうか、についてです。これについてはそもそも高熱だけでは脳がダメージを受けることはないため、解熱剤使用とは全く関係ありません。髄膜炎・脳症・脳炎など脳に後遺症を残す可能性がある病気では、病気自体の症状として高熱がみられますが、高熱が原因で脳がダメージを受ける、というわけではありません。

【参考文献】

1)Murata S, et al. Acetaminophen and Febrile Seizure Recurrences During the Same Fever Episode. Pediatrics. 2018 Nov;142(5):e20181009.

 

◎解熱剤を使うとどれくらい熱が下がるか

 「こどもに解熱剤を使っても熱が全然下がらない」という経験をされたこともある方も多いと思いますが、果たして解熱剤を使用するとどれくらい熱が下がるものでしょうか?

 アメリカで2~12歳の発熱の小児に対してアセトアミノフェンを内服した時の効果を研究した論文があります

2)。そこで示されているアセトアミノフェンの解熱効果を下にお示しします。

 この報告によると、アセトアミノフェン内服の1時間後くらいから解熱効果があらわれ、2-4時間後が効果のピークですが、この段階でも1℃程度の解熱効果しか得られないということが分かります。もちろんこの解熱効果には個人差があり、一般的には解熱作用は0.5~1.5℃くらいのことが多いです。

 また、「解熱剤を使ったのにむしろ熱が上がった」ということもしばしば経験します。なぜこういうことが起こるのでしょうか?

 解熱剤の効果で逆に熱が上がる、というのは考えにくく、この場合は「もし解熱剤を使用しなかったら、もっと熱が上がっていた」と考えると理解がしやすいと思います。

 例えば39.0℃の時に解熱剤を使用したとして、解熱剤を使用しなければ3時間後に40.0℃まで上がるとします。この場合、解熱剤の効果で40.0℃から0.5℃下がると39.5℃になりますが、解熱剤の使用前の39.0℃に比べると0.5℃上がっていますので、まるで解熱剤を使用することで熱が上がったような印象を受けるかもしれません。

【参考文献】

2)Kauffman RE, et al. Antipyretic efficacy of ibuprofen vs acetaminophen. Am J Dis Child. 1992 May;146(5):622-625.

 

◎解熱剤は坐薬と粉と粒があるが、どれを選択すべきか

 アセトアミノフェンには坐薬と細粒(粉薬)、錠剤(粒)がありますが、どう違うのでしょうか?できれば服用しやすくて、しかも早く効いて効果が高いものにしたいですよね。

 アセトアミノフェンの坐薬もしくは細粒、錠剤を絶食で空腹な状態の健康な成人に投与したときの血中濃度の推移を調べた資料がありますので、下にお示しします(カロナール、アンヒバのインタビューフォームより作成)

 意外かもしれませんが、「粉薬と錠剤はほぼ同じで、速く吸収される」「坐薬が吸収されるのが一番遅いが、効果が長く続きやすい」という結果になっています。坐薬は肛門に入れた後に体温で溶けてからでないと吸収できないので、その分効果が出るまで時間がかかるのではと推測されます。

 ただ、飲み薬は一般的に空腹時の方が吸収が速く、胃の中に食物などが入っていると吸収がゆっくりとなるという特性があります。ここでお示ししたデータは絶食で空腹時に内服するとどうなるか、というデータのため、現実に薬を飲むときは効果はもう少しゆっくり出て、坐薬とあまり変わらなくなるのではないかと思います。

 なので、実際には坐薬・粉薬・錠剤の解熱効果はあまり変わらない、と考えてよいでしょう。

 小児で、特に機嫌が悪い時などは薬をなかなか飲んでくれないこともありますし、当然ですが薬は服用できないことには効かないので、「薬が飲めそうなら粉薬か錠剤」「飲むのが難しそうなら坐薬」で良いのではないでしょうか。

 もちろん当院ではお子さんや保護者の方の希望の剤形で処方するようにいたしますので、お気軽に何でもご相談ください。

 

◎熱がなかなか下がらない場合、何回も解熱剤を使って大丈夫か

 アセトアミノフェンは用法用量を守れば安全性が高い薬です。処方された適切な量を6時間以上あけて使用していただければ、発熱が続く間は毎日使っても大丈夫です。ただ、繰り返しになりますが、解熱剤は症状を和らげる力はありますが、病気自体を治すわけではないため、発熱が何日も続く場合は病状の正確な評価が必要です。熱が続く場合は受診を検討してください。

 

◎解熱剤の使用期限について

 カロナール細粒®、カロナール錠剤®は製造後3年間、アンヒバ坐薬®は製造後5年間は問題なく使用できるようです(あくまで「製造後」です。「処方後」ではありません)。ただ時間がたつとお子さんの体格も変わって薬の必要量も変化するので、1年程度を目安にすると良いでしょう。

 

◎おでこに貼る冷却シートについて

 冒頭の写真の子どもが使用しているように、ドラッグストアなどに行くと、多くのメーカーから発売されている、まるで使用すると熱が下がりそうな商品名の冷却シートが並んでいますね。しかし、これらの冷却シートに解熱効果は全くありません。「熱が出ている時におでこに貼ると冷たくて気持ちいい」効果が得られるものと思ってください。もちろん発熱による苦痛を取ってあげた方がよいとは思いますし、使用を否定するものではありませんが、くれぐれも誤飲しないようには気を付けてください。万が一飲み込んでしまうと、胃や腸の中で冷却シートが水を吸ってパンパンに膨らみ、腸閉塞を起こしてしまう危険性があります。

 

 以上、こどもの解熱剤のお話をさせていただきました。

 最後までご覧いただきありがとうございます。

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