診療

熱中症の話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回は熱中症についてお話させていただきます。

 

◎熱中症とは

 体内に熱がこもり体温が上昇すると、人の体は汗をかいたり、毛穴を開いたりして熱を体外に逃がすなどして、適切な体温を維持しようとします。この体温調節機能がうまく働かない場合、体内に熱がたまってしまい、熱中症となります。

 

◎熱中症になりやすい要因について

 熱中症は3つの要因により引き起こされやすくなります。

<環境要因>

 気温、湿度が高く、日差しが強いなどはもちろんですが、急に暑くなった日などは体が暑さに慣れていないために体温調節がうまくいかず、熱中症のリスクは高まります。

<体の要因>

 年少児や肥満の方は熱を外に逃がしにくいため、熱中症のリスクが高いです。夏場の道路などでは地面のアスファルトに近い場所の方が気温が高く、身長の低い年少児ではさらにリスクは高くなります。また、かぜや下痢、寝不足など体調が悪い時は体温調節機能がうまくはたらきにくいため、熱中症になりやすいです。

<行動要因>

 長時間の屋外やエアコンの効いていない場所での活動や十分な水分補給が出来ない状態では熱中症のリスクは高くなります。

 

◎熱中症の症状について

熱中症の症状をお示しします。

環境省熱中症環境保健マニュアル2022より作成

 意外と熱中症では熱上がらないなという印象を受けられたのではないでしょうか?実際、熱中症ではかなり重症にならないと高熱が出ません。熱中症で高熱が出る段階になると、自力では立てない歩けない、意思疎通も十分にできないなど全身状態がかなり悪化していることが一般的です。「元気そうに見えるけど熱が高い」という場合は熱の原因は熱中症ではなく、他に原因があることがほとんどです(夏かぜが原因のことが多いです)。

 

◎水分摂取すれば熱中症は防げるか

 水分をちゃんと摂取していないと、汗が出ず体温が下がりにくくなるため積極的な水分摂取は必要です。ただ、汗を出して下げれる体温には個人差があり、また当然限界もあるため水分摂取のみでは熱中症対策として万全とは言えません。熱中症対策としての水分摂取は必要ではありますが、あまり過信するのは危険です。夏場に屋外での運動は避けるのが無難ですが、部活などで避けられない時は水分摂取の他に適宜休憩を取ったり、帽子などで日光に直接当たらないようになど、工夫をしましょう。

 

◎マスクは熱中症の原因となるか

 夏場にマスクをしていると、暑苦しくて外したくなりますよね。暑い時期に不織布マスクをしていると体感温度が約5℃上がると報告されています1)。夏が近くなると、熱中症予防のためにマスクを外すことも呼びかけられていますが、果たして本当にマスクをつけていると熱中症になりやすいのでしょうか?

 日本救急医学会という学会は全国の熱中症の患者さんの情報を収集・登録しており、同学会の報告した2020年、2021年の日本全国での熱中症の発生状況2)をお示しします。

(参考文献2より作成)

  これだけ見ると、マスクをつけても、あまり熱中症のリスクは上がらないような印象を受けますが、各データにはばらつきが大きく正確な評価は難しそうです。

 また、マスクをつけて運動を行った場合、体温がどれくらい上がるかを調べた研究結果が報告3)されています。この研究では、健康な成人12人が気温35℃、湿度65%の環境で不織布マスクを装着し、時速6kmで5%の勾配を30分間歩行した時の深部体温や体表面温度などを測定しています。ちなみに5%の勾配というのはなかなかの傾斜で、毎年夏に山梨県で行われているMt.富士ヒルクライムという富士山の五合目まで自転車で登るロードレースの大会があるのですが、その平均勾配は5.2%のようです。そのレベルの坂を気温35℃の中30分間早歩きのスピードで歩くなんて、マスクの有無にかかわらず熱中症になりそうですね。果たしてどのような結果になったのでしょうか。

 結果としては、直腸温(深部体温)、平均皮膚温度(表面体温)の上昇幅はマスク装着の有無で変わらないという意外なもの(?)になっています。マスクを装着していると、水分摂取がしにくくなるという面もあるため一概には言えませんが、熱中症の基本的な病態として深部体温の上昇があるため、少なくともマスク装着は熱中症のリスクを大きく高めるものではなさそうです。ただ、検索した限りでは小児を対象としたマスクと熱中症の関係を詳しく調べた研究はなく、小児においてどうなのかについては現時点で断言は難しそうです。少なくともマスクを装着すると呼吸がしづらくなるのは間違いないため、スポーツを行う際は外してもよいであろうと思います。

【参考文献】

1)Shi D, et al. Dual challenges of heat wave and protective facemask-induced thermal stress in Hong Kong. Build Environ. 2021;206:108317.

2)Kanda J, et al. Current status of active cooling, deep body temperature measurement, and face mask wearing in heat stroke and heat exhaustion patients in Japan: a nationwide observational study based on the Heatstroke STUDY 2020 and 2021 .Acute Med Surg. 2023 Jan-Dec; 10(1): e820.

3)Kato I, et al. Surgical masks do not increase the risk of heat stroke during mild exercise in hot and humid environment. Industrial health. 2021, 59, 325-333.

 

◎熱中症のときの対応

 熱中症の重症度の表を再掲いたします。

 Ⅰ度の症状であれば水分補給や涼しい場所で安静にしているなどの対応で、状態が徐々に改善している場合は自宅で様子をみてもよいでしょう。水分はただの水やお茶よりも、適度な塩分や糖分が含まれているスポーツドリンクやOS-1®などの経口補水液の方が適しています。ただ、Ⅰ度でも症状が続くときは病院を受診することを検討してください。また、Ⅱ度以上の時は速やかに病院受診が必要です。Ⅲ度の場合は入院や集中治療も必要なことが多いため、すぐに救急車を呼んでください。

 

 

 以上、熱中症についてお話させていただきました。

 最後までご覧いただきありがとうございました。

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