予防接種

日本脳炎ワクチンの接種時期の話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回は日本脳炎ワクチンについてお話させていただきます。

 

◎そもそも日本脳炎とは

 日本脳炎はフラビウイルス科の日本脳炎ウイルスによる感染症で、1871年に世界で初めて日本で報告されました。ちなみに英語では日本脳炎はJapanese Encephalitisといい、Encephalitisは脳炎という意味です。日本脳炎ウイルスは人間以外ではブタやウマなどに感染しますが、特にブタに感染するとブタ体内でウイルスが増殖し、感染したブタを刺したコガタアカイエカという蚊がウイルスの伝播役になっており、ウイルスを保有するコガタアカイエカに刺されることで人間に感染が起こります。

 日本脳炎ウイルスは感染しても症状がでる人はまれで、感染者の約250人に1人のみしか発症せず、ほとんどの人は感染しても無症状であると言われています。発症した場合、症状は高熱、けいれん、意識障害などで、有効な治療は現時点で存在せず、致死率は約30%とされています1)。

 日本国内では50年以上前には年間1000人以上の患者が発生していましたが、ワクチンの普及や環境の変化などで、現在では日本国内の患者数は概ね年間10例未満となっています。一方海外では日本脳炎は多く発生しており、東南アジアを中心に毎年6万人以上の患者さんが発生し、1万人以上の方が死亡していると報告されています。

【参考文献】

1)Japanese encephalitis. WHO Fact sheet No 386 .December 2015.

 

◎日本脳炎ワクチンについて

 日本脳炎ワクチンは定期接種の対象となっており、一般的には3歳時に2回、4歳時に1回、9歳時に1回の合計4回接種が推奨されています。

 日本脳炎ワクチンは重い副作用のある、危ないワクチンという印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれません。2009年以前に使用されていた日本脳炎ワクチンは、製造過程でマウスの脳の細胞を使用しており、その影響として脳脊髄炎の発症が理論的に危惧され、一旦接種を見合わせていた時期がありました。2010年以降、現在でも使用されている日本脳炎ワクチンは製造方法が変更となり、脳脊髄炎のリスクは極めて低いと考えられています。

 

◎日本脳炎ワクチンの接種時期について

 先ほど触れたように、日本脳炎ワクチンは3歳時に2回(第1期初回1回目、2回目)、4歳時に1回(1期追加)、9歳時に1回(第2期)の接種が推奨されていますが、第1期の定期接種期間は生後6か月から生後90か月(7歳6か月)と、推奨期間に比べて広めの期間が設定されています。

 3歳以降の接種が一般的に推奨されている理由は、

・日本脳炎が国内で流行していた1960年代までは、3歳以降の発症が多かった

・3歳頃になれば乳幼児期のワクチン接種が一段落しており都合がよい

 ためとされています。しかし、近年では3歳未満での日本脳炎の発症も複数例報告されていることから、日本小児科学会は

① 日本脳炎流行地域に渡航・滞在する小児

② 最近日本脳炎患者が発生した地域に居住する小児

③ ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児

については、生後6か月から日本脳炎ワクチンの接種を開始することを推奨する声明を出しています(日本小児科学会の声明の全文はこちらから)。

 この声明をみると、①は東南アジアなどに渡航する予定がある場合は接種した方が良さそう、ということは明らかですが、②③に関してはどうでしょうか。

 ②に関して、2020年8月更新の大阪府のHPによると、大阪府では2009年に1件報告があって以降発生報告がないため、少なくとも「最近発生した地域」ではなさそうです。近畿の他府県のデータでは、国立感染症研究所のHPによると、2015~2020年度の6年間に京都府で1例、奈良県で1例、和歌山県で7例(うち2019年度の1例は大阪府内での感染が推定される)の報告があります。

 ③に関して、大阪府のブタの日本脳炎抗体保有率については、調べた限りでは最近調査が行われておらず不明です。近畿の他府県のデータでは、2020年度に三重県でブタの抗体保有率が70%以上、兵庫県で0%であったと報告されています。

 これらのデータから、大阪府においては②③には積極的にはあてはまらないものの、2019年に府内で感染が疑われた患者さんが報告されるなど、全くリスクがないわけではない、という理解で良さそうです。

 

◎3歳より早く接種するデメリットは

 では、3歳未満で日本脳炎ワクチンを接種するデメリットは何かあるでしょうか。

 日本脳炎ワクチンの接種量は3歳未満と0.25ml、3歳以上で0.5mlと、年齢によって異なるという特徴があります。接種量が少ないとせっかく予防接種をしてもちゃんと免疫がつくのか心配になったり、乳児期に接種することで副反応が強く出るのか心配になるかもいらっしゃるかもしれませんが、これに関してはどうでしょうか。接種量と免疫については、過去に調査が行われ、0.25ml接種でも0.5ml接種でも摂取後の免疫の値や副反応に差がないことが判明しています2)。

【参考文献】

2)Miyazaki C et al. Phase III Clinical trials comparing the immunogenicity and safety of the Vero cell-derived Japanese encephalitis vaccine Encevac with those of mouse brain-derived vaccine by using the Beijing-1 strain. Clin Vaccine Immunol 21: 188-195, 2014.

  

◎当院の日本脳炎ワクチン接種推奨時期

 以上のデータから当院では、「そもそも日本脳炎自体は感染率こそ低いものの、3歳未満でも感染する可能性もあり、また3歳まで接種を待つ積極的な理由もないため、生後6か月を過ぎたら日本脳炎ワクチンの接種を推奨する」という方針といたします。

 もちろん3歳以降に接種を希望される方は3歳以降でも接種を行いますのでご安心ください。

 

日本小児科学会の推奨するワクチンスケジュールはこちら

 

 

 以上、日本脳炎ワクチンについてお話させていただきました。

 最後までご覧いただきありがとうございました。

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