診療

便秘症の話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回は便秘症についてお話させていただきます。

 

◎何日排便がなければ便秘症なのか

 回数だけで言えば、1週間に2回以下しか排便を認めないものが便秘症とされています。ただ、排便の回数は大丈夫でも、1回の排便で出る量が少ないなどの理由で徐々に腸の中に便がたまっていき、腹痛などが出現することはよくあります。毎日排便があっても腸の中に便が多量にたまっている方も多くみられます。

 そのため、回数よりも「便がたまっていることによる症状で困っている」場合、便秘症と診断し治療が必要と考えてよいでしょう。「便がたまっていることによる症状」とは、腹部が張った感じ、腹痛(主に食後)、排便時の肛門痛、排便に長い時間がかかるなどです。

 

◎こどもの便秘症の頻度について

 日本人を対象とした調査では、5-6歳児で8.4%、7-12歳の男児の13.2%、女児の24.1%が便秘症であると報告されています1)、2)。

 こどもが便秘症になりやすいのは、

・離乳食開始時

・3歳前後のトイレトレーニング開始時

・小学校1-2年生の時

の時期であることが多いです。

【参考文献】

1)Asakura K,et al. Dietary intake, physical activity, and time management are associated with constipation in preschool children in Japan. Asia Pac J Clin Nutr. 2017;26(1):118-129

2)Kajiwara M, et al. The micturition habits and prevalence of daytime urinary incontinence in Japanese primary school children. J Urol. 2004;107:403-407.

 

◎便秘の悪循環について

 便秘による悪循環のモデル図をお示しします。

 

 便秘になると、便が硬く太くなるので、排便時に肛門痛や腹痛を感じることがあります。痛みへの恐怖でこどもは排便を我慢するようになり、便がなかなかでなくなります。便が腸の中に滞留すると、便中の水分が粘膜から吸収され、便がますます硬くなって・・・という悪循環に陥ります。

 また、便が習慣的に腸の中にたくさんたまっていると、腸が拡張してしまいます。本来腸が拡張することで我々は便意を感じるので、ずっと拡張していると便意を感じにくくなります。そうなると腸はますます拡張して・・・という悪循環も同時に起こります。

 

◎便秘症の検査・診断方法について

 腹部の触診で腸の中に便が溜まっているかどうかは概ね分かるのですが、腸のガスが多い時などは正確な評価が難しいこともあります。当院ではより正確な診断のため、触診に加えて腹部超音波検査(エコー)を行い、客観的な評価をいたします。

 腹部超音波検査では

・腸の中の便の性状(かたいかやわらかいか)

・便がどれくらいたまっているか

・腸が拡張しているかどうか(拡張している場合は便秘症が治りにくいことが多い)

などを確認いたします。

 

◎食事療法、生活習慣について

 規則正しい生活を心がけ、適度な運動を行い、便意を我慢しないことが重要です。

 食物繊維やオリゴ糖、ヨーグルトなどのプレ・プロバイオティクスの効果は個人差がありますが、試してみるとよいかもしれません。

 しかし、食事療法+運動療法のみでは便秘症の改善効果はあまり高くなく、薬物治療が必要になることが多いです。2歳未満の便秘症のこどもを対象にした研究では、食事療法のみで便秘が解消されるのは25%に過ぎず、薬物療法を行うと92%で便秘が解消されたという結果が報告されています3)

【参考文献】

3)Loening-Baucke V. Prevalence, symptoms and outcome of constipation in infants and toddlers. J Pediatrics. 2005.Mar;146(3):359-363.

 

◎病院で処方される薬剤について

① 腸を刺激して排便を促す薬

・ピコスルファート(ラキソベロン®):水薬、錠剤。寝る前に飲むと翌朝出やすい。

・グリセリン浣腸:10-20分以内に効果あり。一番確実だが大変。

・坐薬(テレミンソフト坐薬®、新レシカルボン坐薬®):1時間以内に効果あり。

② 便を軟らかくし、出やすくする薬

・酸化マグネシウム:粉、錠剤。1日1~2回。まずはこれで治療開始することが多い。

・ラクツロース(モニラック®):シロップ。1日1~3回。効果は穏やか。

・マクロゴール(モビコール®):水薬。効果は高いが、量が多く、塩辛いのでやや飲みにくい(カルピスやフルーツオレに混ぜると飲みやすくなる)。

 これらを組み合わせて治療を行います。また、患者さんによっては漢方薬もよく効くことがあります。

 便秘症で整腸剤が処方されることもありますが、整腸剤が便秘症を改善させるという十分なエビデンス(証拠)は少なくとも小児においてはありません。飲んでいた方が調子が良い、という方もいらっしゃるので補助的に併用することもあります。

 

◎薬はクセにならないか

 適切な治療を行えば、クセになることは基本的にありませんし、むしろ、治療を行わず放置した方が腸が拡張し、便意を感じにくくなるなどの悪循環となり、便秘症が治りにくくなります。適切に治療を行い腹痛のない生活を目指しましょう。

 

◎便秘症の治療期間はどれくらいか

 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン(日本小児栄養消化器肝臓学会、日本小児消化管機能研究会)によれば

・薬物治療には通常6~24か月を必要とする

・治療開始後2年以内に薬物治療が終了できるのは約50%

・思春期になっても治療継続を必要とするのは約25%

とされています。一般的に、便秘症は長期間の治療が必要なことが多いです。

 もともと腸が長い、肛門がゆるみにくいなど体質的に便秘症になりやすい原因がある場合、治療を中止すると便秘症が再燃してしまうことはよくあります。ただ、この場合でも便秘を放置するとますます悪化してしまい、日常生活の質がどんどん落ちてしまうため、継続した投薬が必要です。

 

 

 以上、便秘症についてお話させていただきました。

 最後までご覧いただきありがとうございました。

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