こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。
今回は低身長のお話をさせていただきます。
◎そもそもどこからが低身長なのか
低身長の程度を評価するために、医療機関ではSD(標準偏差)スコアという指標を使います。0(ゼロ)SDが標準身長で、標準身長よりも身長が低い場合にSDスコアはマイナスになり、身長が低いほどSDスコアは小さくなります。
一般的には、身長が-2SD以下の方を低身長症と定義しており、同じ性別、同じ誕生日のお子さんが身長順に並んだ場合、前から2.3%までの方が該当します。
-2SDと言われてもあまりピンとこないですよね。成人の身長に置き換えてみると、どの程度になるのでしょうか。日本人の平均身長は成人男性で171㎝、成人女性で158㎝ですが、身長の-2SDは成人男性で159.1㎝、成人女性で147.6㎝です。こうお示しすると、ああ、なるほどと感じていただけるのではないでしょうか。
さらにイメージしやすいように、身長が低い印象がある芸能人の方のSDスコアを計算してみましょう。男性ではナインティナインの岡村隆史さんが156㎝で-2.6SD、爆笑問題の田中裕二さんが153.5㎝で-3.0SD、女性では森三中の村上知子さんが146㎝で-2.3SD、元モーニング娘の矢口真理さんが144.5㎝で-2.6SDです(身長の値はいずれもWikipediaより)。
なんとなく低身長の程度のイメージをつかんでいただけましたか?
続いて、年齢ごとの-2SDの値をお示しします。もしお子さんが-2SDの身長を下回る場合は低身長症の可能性があるため、医療機関の受診をご検討ください。
もう少し詳しくお子さんのSDスコアを調べたい方は、こちらのサイトで簡単に計算できます。
◎成長曲線と身長が伸びる時期について
みなさんは、「成長曲線」という言葉を耳にされたことがありますでしょうか?母子手帳に載っている成長のグラフのさらに詳しいもので、医療機関では通常この成長曲線を用いて身長の伸びを評価します。
年齢ごとの身長、体重の伸びが書かれており、身長については+2SDから-3SDまでそれぞれの値が示されています。
なお、この成長曲線の用紙は2000年度版で20年以上前のものですが、この頃から日本人の平均身長はほとんど変わっていないので、現在でも問題なく使用しています。
この表をよく見ると、身長の伸びるペースによって、3つの時期に分けることができます。
この第三段階が終われば、以降は身長があまり伸びません。
これからそれぞれ段階の特徴についてお話しいたします。
① 第一段階
出生後から3~4歳頃までの時期を指します。出生時の身長は本人の最終身長とはあまり関係がないことが多く、主に胎盤の状態など、子宮内の環境により決定されます。出生後から3~4歳頃にかけて、その子の本来の小児期の身長(という言い方が適切かどうか分かりませんが)に向かって身長が伸びていきます。
この時期の身長の伸びには栄養が重要な要因となり、成長ホルモンの関与の度合いは比較的低いと考えられています。
② 第二段階
3~4歳頃から男子で10歳頃、女子で8歳頃までの時期を指します。この時期はそれまでよりも身長の伸びるペースは落ちますが、安定した伸びが得られます。この時期の身長の伸びは比較的個人差が小さいため、背の順に変動があることはあまりありません(この時期に身長の伸びが悪くなったり、逆に急激に伸びたりする場合は何か病気が隠れている可能性があるため精査が必要なことがあります)。
この時期の身長の伸びには成長ホルモンが重要な要因となります。
③ 第三段階
男子で10歳頃から15歳頃、女子で8歳頃から12歳頃までの時期を指します。第二次性徴が出現し、急激に背が伸びます。通常、男子は精巣が大きくなり出す時期から、女子は胸が大きくなる約1年前から身長の伸びのペースが上がります。思春期では平均で男子は30㎝、女子は25㎝身長が伸びて最終身長となります。この思春期の伸びは個人差が大きく、プラスマイナス5cm程度伸びが違うことはよくあります。
この時期の身長の伸びには成長ホルモンと性ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモン)が重要な要因となります。
◎身長は遺伝するのか
身長は遺伝的な要因が大きく、両親が小柄であった場合、そのこどもが高身長となることはあまりありません。
両親の身長からこどもの最終身長を予測する計算式として
・男子の場合:(父親の身長+母親の身長+13)÷2
・女子の場合:(父親の身長+母親の身長-13)÷2
がよく用いられます(最終身長はばらつきが大きく、この計算式はあくまで目安程度に考えてください)。
◎低身長の原因
低身長の主な原因を以下にお示しします。
① 体質:原因として一番多いです。この場合、「病気」ではないため、治療は出来ません。
② 成長ホルモンや甲状腺ホルモンなどホルモンの病気:異常があった場合、適切に治療を行うことで身長の伸びの改善が期待できます。
③ 出産の時の状況:妊娠週数に比べて小さく生まれた場合、その後の身長の伸びが悪いことがあります(SGA性低身長症といいます)。
④ 骨の異常:軟骨異栄養症など
⑤ ターナー症候群やプラダーウィリー症候群など、先天性の低身長を伴う症候群
⑥ 慢性的な内臓の病気:心臓や肝臓、腎臓や代謝疾患など慢性的な病気がある場合は低身長となることがあります。
⑦ その他:栄養不足やストレスなど。最近、血液中の亜鉛不足を認める低身長症で、亜鉛補充治療により身長の伸びが改善する可能性が報告されています。
はっきりとした低身長の原因が判明し、治療につながれば身長の伸びがよくなることが期待されます。
◎低身長の検査
当院に低身長で受診された場合、以下のような流れで診察・検査を行っていきます。
母子手帳と、可能であればこれまでの身長の値がわかるもの(保育園・幼稚園や学校での身体計測の結果など)をご持参ください。また、診察予約時にweb問診の記入もお願いします。
① 問診・診察
これまでの身長・体重の経過、出生時の状況(在胎週数、出生体重・身長、分娩状況)、ご家族の身長などをお伺いし、また骨格や胸部・腹部などを診察させていただきます。
② 血液検査
必要に応じて血液検査を行います。血液検査で内臓機能や甲状腺ホルモンなどの成長に関わるホルモン、血中の亜鉛値などを測定します。
③ 骨年齢測定
手の骨のレントゲンを撮ることで骨の成長具合をみることができます。当院ではレントゲン撮影機器がないため、近隣の医療機関に撮影を依頼いたします。
④ 成長ホルモン分泌負荷試験
以上の検査結果で成長ホルモンの分泌不良が疑われる場合、後日成長ホルモン分泌負荷試験を行います。この試験は、検査前日22時から絶食のうえ、当日の朝食を摂らないで来院していただき行います。朝9時頃から検査を始めて、通常1時間半から3時間程度で終了します。
総合病院では負荷試験は2泊3日前後の入院で行うことが多いですが、当院では外来で行うことが可能です。
負荷試験の結果、成長ホルモン分泌が不十分であると判断された場合は成長ホルモン治療の対象となります。
◎成長ホルモンの投与
健康保険を使用して成長ホルモンの投与を開始するために必要な条件は「身長が-2.0SD以下で2種類以上の成長ホルモン分泌負荷試験で成長ホルモン分泌が不良である」です(他にも細かい条件がありますが、本項では割愛します)。そのため、成長ホルモン分泌負荷試験は日を変えて2回以上行う必要があります。
上記の条件を満たした場合、成長ホルモンの投与が開始できます。
成長ホルモンの薬は飲み薬ではなく、注射薬となります。通常週に1回の投与で、ご自宅で行います(条件により週7回の投与が必要になることもあります)。注射は年少児であれば保護者の方が、小学校高学年以上であればご自身で注射されることが多いです。
注射と聞いて、痛みが心配だったり、自宅で注射が出来るか不安だったりする方もいらっしゃるかと思いますが、通常は痛みはさほどではなく、注射の手技もちゃんと病院で指導いたしますので問題なく出来る方がほとんどです。
成長ホルモンの治療は身長の伸びが止まる頃まで行いますので、通常男子は15~16歳頃、女子は13~14歳頃まで行います。
◎成長ホルモンの効果と副作用
成長ホルモンの投与開始後、通常2年程度で急激に身長が伸び、投与を行わなかった場合に比べて+5㎝程度の伸びが得られることが多いです。しかし、治療開始後3~4年目以降の身長増加は健康小児とほぼ同等程度となります。最終身長の増加効果は、開始年齢にもよりますが(一般的には早く始めた方が治療効果は高いです)、平均で+5~6㎝程度となります。もし何らかの理由で治療を途中で中断した場合、以降の成長速度が鈍くなり、治療開始前の身長のSD値に近づいていってしまうため、基本的には治療開始後は身長が止まる頃まで治療を継続する必要があります。
※上記はあくまで平均的な治療中の経過です。効果には個人差があります。
ここまでお話して、「成長ホルモンの治療をすればもっと背が伸びると思っていた、意外と効果低いな」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、治療を行うことで-2SD以下の身長の方が平均身長になったり、高身長になることは通常ありません。
医学的には、成長ホルモン治療は「低身長により感じるコンプレックスを軽減させる」ということが目的ですので、「背の順でダントツ一番前の子どもを、治療を行って前から2番目か3番目に引き上げる」というのが治療のイメージと考えてください。
成長ホルモン治療の効果をイメージしやすいように、今回も芸能人で例示させていただくと、
男性で最終身長156㎝(-2.6SD:ナインティナインの岡村隆史さんの身長)が予測される方が治療を行うと、
・+5cmなら161㎝(TMレボリューションの西川貴教さんの身長)
・+6㎝なら162㎝(ロザンの菅広文さんの身長)程度になる。
女性で最終身長144.5㎝(-2.6SD:元モーニング娘の矢口真理さんの身長)が予測される方が治療を行うと、
・+5.5cmなら150㎝(タレントの山田花子さんやモデルの益若つばささんの身長)程度になる。
と考えると治療効果のイメージがさらにつきやすいかと思います(身長の値はいずれもWikipediaより)。
次に、成長ホルモン治療の副作用についてお話します。
通常あまり問題となるような副作用はありませんが、頭痛や関節痛(成長痛)を訴えられる方がしばしばみられます。また血糖値が上がることがあるので、定期的に血液検査でチェックを行います。以前は成長ホルモン投与により悪性腫瘍や白血病の発生確率が増加すると考えられていましたが、現在は否定的な考え方が主流です。
成長ホルモンの副作用については、そもそも成長ホルモンの分泌が低下しているから成長ホルモンを補っているだけなので、通常大きな副作用は認めないことが多いです。
◎成長ホルモン治療の費用
健康保険が適用される場合、乳幼児医療助成があるため自己負担があまりなく治療を行うことが可能です(2023年現在、交野市、寝屋川市在住の方は高校3年生まで、枚方市に在住の方は中学3年生まで診察料500円のみで治療を行うことが可能です)。また一定の条件を満たせば、小児慢性特定疾病といって20歳になるまで医療費助成が継続されることもあります(詳細は診察時にご説明いたします)。
なお、当院では健康保険適応外の自費での成長ホルモン治療は行いませんので、あらかじめご了承ください。
以上、低身長についてお話させていただきました。
最後まで見ていただいてありがとうございました。