感染症

感染経路と感染予防の話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回は感染症の感染経路と予防方法についてお話させていただきます。

  

<感染症の感染経路について>

 

◎主な感染経路について

 ウイルスや細菌などの病原体は、通常健康な皮膚から体内に侵入することはなく、口や鼻、のど、目など粘膜から体内に入り込んで感染が成立します。この粘膜に至るまでの感染症の経路は病原体の種類によって異なり、主に「接触感染」「飛沫(ひまつ)感染」「空気感染」に分けられます。代表的な感染症や病原体の感染経路を下にお示しします。記載しているように、接触感染と飛沫感染の両方を起こす病原体が多いです。

 

◎接触感染

 接触感染は、感染者から排出された細菌やウイルスなどの病原体を含む唾液や鼻汁、排泄物などが付着したものに触ることによっておこります。接触感染は手を介して起こることが多いですが、健康な皮膚には病原体を体内に侵入させない防御機能が備わっているため、病原体が手に付着しただけでは通常その人に感染することはありません。先ほどお話したように、多くの病原体は口や鼻、のど、目などの粘膜から体内に侵入するため、病原体の付着した手で目、鼻、口を触ったり、食べ物を食べることではじめて感染が成立します。

 接触感染の予防方法としては(特に顔を手で触る前の)手洗いやアルコールなどの手指消毒、環境の清拭などが有効です。

 

◎飛沫感染

 咳やくしゃみ、会話をすると、口から小さいしぶきが飛び散ります。このしぶきのことを飛沫とよびます。この飛沫が口や鼻、のど、目などの粘膜などにかかったり吸い込んだりすると、粘膜から細菌やウイルスが体内に侵入して感染が起こります。飛沫は水分を含んでいるため、口から出た飛沫は通常2m以上飛ぶことはなく、地面に落ちます。ソーシャルディスタンスとして2m距離を取りましょうとよく言われますが、この2mは飛沫が飛ぶ距離を根拠にしています。

 飛沫感染の予防方法としては、マスクの着用、ゴーグルやフェイスシールドによる目の保護、3密(密閉、密接、密接)を予防のための換気や人込みを避ける、ソーシャルディスタンスを保つなどが有効です。

 

◎空気感染

 飛沫感染の飛沫はすぐに地面に落ちますが、飛沫中に含まれる水分が蒸発すると飛沫核とよばれるさらに小さい微粒子となります。飛沫核は空気中を長時間漂い、その微粒子を吸い込むことにより空気感染は成立します。空気感染を起こす感染症の場合、患者さんと同じ部屋にいて呼吸をしているだけで感染してしまいます。麻しん(はしか)は空気感染を起こす非常に感染力が強いウイルス感染症ですが、免疫がない方が麻しん患者さんと同じ部屋にいるだけで90%の確率で感染して発症すると言われています。

 空気感染の予防方法としては、医療現場ではN95マスクといって特殊なマスクを着用したり、換気の徹底や高性能の空気清浄機を使用して予防しますが、個人としての予防法はワクチンを接種することが一番有効です。幸い空気感染を起こす代表的な病原体である結核、麻しん、水痘(みずぼうそう)には有効なワクチンがあり、定期接種の対象となっています。結核は乳児期にBCGワクチンで、麻しんと水痘はそれぞれ1歳を過ぎたらMRワクチンと水痘ワクチンで予防可能です。

 

 

<感染症の予防方法について>

 

◎ワクチン

 現在多くの種類のワクチン接種が行われており、高い有効性が報告されています。

 院長が医師になった2007年当時、小児で定期接種対象ワクチンは6種類(3種混合、BCG、経口ポリオ、MR、日本脳炎、2種混合)でしたが、2023年4月現在は11種類(ヒブ、肺炎球菌、B型肝炎、ロタ、4種混合、BCG、MR、水痘、日本脳炎、2種混合、HPV)と倍近くに増えており、様々な感染症が予防可能となっています。ワクチンで予防できる病気は接種可能な時期が来れば早めに接種を受けて、しっかりとした免疫をつけるようにしましょう。

 

◎マスク

 広く使用されているマスクの種類をお示しします。

・布マスク、ガーゼマスク:主に花粉症予防用です。しないよりはましですが、感染症予防効果は低いです。

・不織布マスク(サージカルマスク):一般的な医療現場で使用されているマスクです。飛沫感染を予防します。

・N95マスク:空気感染も予防できるマスクです。主に感染症診療時に使用されています。

 N95マスクは感染予防効果は非常に高いのですが、装着すると呼吸がしづらくなるため、日常的には不織布マスクの装着が推奨されます。マスクを装着することにより、自分が感染するのみならず他者に感染を予防する効果があるため、同居家族以外と接触する場合は積極的に不織布マスクを装着しましょう。

 新型コロナウイルスの感染予防としてのマスクの効果についての報告の1つをお示しします。2021年5月(オミクロン株の流行以前)のアメリカ産業衛生専門家会議(ACGIH)パンデミック対策タスクフォースが発表した報告です。新型コロナウイルス感染者と非感染者のお互いのマスク装着状況ごとに、理論上感染が成立する接触時間が示されています。

(ACGIH報告資料をもとに医院作成)

 感染者、非感染者双方がマスクを装着していない場合、15分の接触で理論上は感染が成立します(新型コロナウイルスの流行初期時の濃厚接触者の定義は「1メートル以内で15分以上接触した人」でした)が、双方が不織布マスクを装着している場合は60分、双方がN95マスクを装着している場合(このような状況は通常ありませんが)は1500分(25時間)大丈夫であるとされています。この報告はより感染力が強いオミクロン株の流行前で、ワクチン接種もまだ十分に行われていない時期のものなので、現在と状況は違いますが、マスクの重要性がよく分かる報告ですね。

 

◎手洗い、手指消毒

 接触感染の予防方法として効果的です。手指のアルコール消毒は簡便に行うことができ、アルコールが有効な病原体に対しては効果的な方法です(「アルコール消毒の話」もご参照ください)が、ノロウイルスなどアルコールが効きにくい病原体も一定数あるため、過信は禁物です。顔を手で触る前には石けんと流水を使用した手洗いを行うようにしましょう。

 また、当然と言えば当然ですが、手洗いや手指消毒は正しい方法で行わないと効果が減少してしまいます。厚生労働省のホームページに正しい手指消毒、手洗い方法が書かれているので、参考にしてください。

 

◎環境清拭、消毒

 接触感染の予防方法として効果的です。アルコールもしくは次亜塩素酸ナトリウム溶液などを使用して、特に人が触れる機会の多い水道の蛇口、ドアノブ、テーブルや、嘔吐物や便の付着した部位をしっかり消毒しましょう。次亜塩素酸ナトリウム溶液による消毒方法は、島根県感染症情報センターのホームページにわかりやすく記載されているため、参考にしてください。

 また、タオルの共有を行うと接触感染のリスクが高まります。公共機関では使い捨てのペーパータオルを使用することが一般的ですが、家庭内でも特に何らかの症状がある時などは、タオルの共有は避けましょう。

 

◎目の保護

 飛沫感染の予防方法として有効です。新型コロナウイルスの出現以降、医療現場ではフェイスシールドやゴーグルなどで、目を保護するのは一般的になりましたが、さすがに日常生活で実践するのは難しいかもしれません。

 では、医療用ではなく一般的に近視などで使用されているメガネにも飛沫感染予防効果はあるのでしょうか。イギリスで行われた研究1)では、メガネをかけていない人の新型コロナウイルスの感染率が10.2%であったのに対して、1日8時間以上メガネをかけている人は5.2%と半分程度の感染率であり、近視用メガネにも飛沫感染予防効果があるのではという結果が報告されています(年齢によりメガネの着用率が上がるため、年齢など色々な要因を調整するとメガネ着用による感染予防効果は20%程度と見積もられています)。一方コンタクトレンズは根拠となるような文献を見つけることが出来なかったのですが、その性質上飛沫感染予防効果は乏しいのではないかと思われます。

【参考文献】

1)Lehrer S, Rheinstein P. Eyeglass reduce risk of COVID-19 infection. In Vivo.  2021 May-Jun;35(3):1581-1582

 

◎換気と3密の回避

 新型コロナウイルスの流行初期に3密(密閉、密集、密接)を回避することがさかんに呼びかけられましたが、3密の回避は接触感染、飛沫感染、空気感染の予防に効果的です。

 換気を徹底することは、空気感染と飛沫感染の予防につながります。文部科学省の学校環境衛生管理マニュアル(平成30年度改訂版) では、インフルエンザ等の感染症拡大の予防対策として、学校教室に教師1名と生徒40名が在室している場合(家庭のサイズに換算すると6帖の部屋に5人在室している密集空間となります)、1時間に2.4~4.6回空気が入れ替わるレベルの換気を推奨しています。

 また、アメリカCDC(疾病対策センター)のガイドラインでは、医療機関で空気感染を予防するためには1時間あたり12回以上の換気を行うように推奨しています。当院の隔離待合・診察室はこのCDCの基準をクリアするように設計していますが、実際医療機関以外ではこのレベルの換気は難しいかもしれません(建築基準法に定められている一般住居の居室の換気基準は1時間に0.5回以上となっています)。どうしても人が集まってしまう時などには冷暖房にも注意を払いながら、窓を少しだけ開けたり、換気扇を回すなど行うと換気効率を向上させることが出来ます。

 

◎空気清浄機

 適切なフィルターを備えている空気清浄機は空気感染や飛沫感染の予防として効果的です。一般的に医療機関で使用されている空気清浄機のフィルターはHEPAフィルターといって、0.3μm(1μmは1mmの1000分の1)の微粒子に対して99.97%以上の微粒子捕集率を有しているものです。空気感染を引き起こす飛沫核のサイズは5μm未満、新型コロナウイルス感染を引き起こすエアロゾルのサイズは1~4μmと報告されており2)、HEPAフィルターを備えている空気清浄機は新型コロナウイルス感染や空気感染の予防効果が高いと考えられます。

【参考文献】

2)Chia PY et al. Detection of Air and Surface Contamination by Severe Acute Respiratory Syndrome 1 Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) in Hospital Rooms of Infected Patients. Nat Commun. 2020 May 29;11(1):2800. 

 

◎スイスチーズモデル

 スイスチーズモデルという言葉を聞かれたことはありますでしょうか?スイスチーズは穴が開いているチーズで、スイスチーズモデルはそのチーズをスライスして何枚も重ねた状態をイメージしたものです。

スイスチーズモデル

 上のように数枚スライスを重ねただけでは、どこかの穴は重なるかもしれませんが、下のように重ねる枚数が増えるごとにすき間が埋まっていくため、穴が最後まで通じる可能性が低くなるというものです。感染症予防においてもこのモデルは当てはまり、それぞれのチーズは今回ご紹介したワクチン、マスク着用、手洗い、環境消毒などです。完璧な感染予防方法はなく、それぞれに穴がありすり抜けてしまう感染症もありますが、組み合わせて実行することで感染予防効果が上がります。

 

◎正しい感染予防の知識

 感染予防を行うにあたって一番大事なことです。スイスチーズモデルの項でもお話しましたが「これさえやっていれば感染予防は完璧」という理想的な感染予防策はなく、様々な感染予防策を組み合わせることで質の高い感染対策を行うことが出来ます。正しい知識を身に着けて実践し、感染症をしっかりと防ぎましょう。

  

 

 以上、感染経路とその予防方法についてお話させていただきました。

 最後までご覧いただきありがとうございました。

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