こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。
今回は抗生物質(抗生剤)についてお話させていただきます。
目次
◎抗生物質とは
感染症を起こす病原微生物としてはウイルス、細菌、真菌などがありますが、このうち細菌を殺す薬が抗生物質です。細菌感染症を起こしている患者さんに抗生物質を投与すると、治るまでの期間が短くなったり重症化を防ぐことが出来ます。
◎抗生物質はほとんどの風邪や咳、鼻水やのどの腫れには効かない
風邪の原因の約9割はウイルス感染であり、抗生物質はウイルス感染には効果がありません。ウイルスを殺すいわゆる「抗ウイルス薬」が効果をあるウイルスは、インフルエンザウイルスやヘルペスウイルスなどごく一部の種類しかなく、多くのウイルスは症状を抑える対症療法を行いながら自然治癒を待つしかないのが現状です。
熱、咳、鼻水などの風邪症状がある患者さんに対して、とりあえず発症してすぐに抗生物質を飲んだグループと、発症当初は抗生物質を飲まなかったグループを比較したかなり大規模な調査が過去に行われましたが、発症後すぐから抗生物質を飲んでも飲まなくても、症状がおさまるまでの期間や重症化率に差がないという結果が得られています。
【参考文献】
1)Spurling GK, et al. Delayed antibiotic prescriptions for respiratory infections. Cochrane Database Syst Rev. 2017. Sep 7;9(9):CD004417.
◎抗生物質を投与すると、身体にとって大切な良い細菌まで殺してしまう
健康な人の中には多くの細菌が存在していて、これを常在菌と言います。常在菌の数は、人間の細胞の数とほぼ同じ40兆程度と考えられており、人間と共生関係にあります。常在菌の多くは口から肛門までの消化管に存在し、他の病原菌の繁殖を防いだり、食物の消化吸収を助けたりしています。
抗生物質は色々な種類の細菌を殺すので、病原菌だけでなく、身体にとって必要な常在菌まで殺してしまいます。
多くの抗生物質の副作用として認められる下痢ですが、これは腸の中で消化吸収に大事な役割を果たしている善玉菌を抗生物質が殺してしまうことで起こります。そのため、抗生物質を処方するときには善玉菌を補うために整腸剤が一緒に処方されることがあります。
病気の原因となっている細菌に抗生物質が効きにくい場合、抗生物質の影響で常在菌が死んでしまい体の中の細菌のバランスが崩れ、病原菌が増殖してしまって病気がかえって悪化する危険性もあります。
◎抗生物質の過度な使用は耐性菌を増加させ、本当に必要な時に使用できなくなる
抗生物質を使用すればするほど、抗生物質が効く菌が減少し、抗生物質が効きにくい耐性菌が増えることが知られています。
耐性菌に感染して重篤な症状が出た場合、抗生物質が効きにくいため重症化したり、治療が困難となることがあります。
◎抗生物質は処方された分は最後まで飲み切りましょう
当院では発熱患者さんにとりあえず抗生物質を処方することはまず行いません。もちろん診察や検査の結果必要と判断して抗生物質を処方することはありますが、処方された分は必ず最後まで飲み切ってください。
例えば5日間飲むべき抗生物質を2日で症状が良くなったからといって飲むのをやめてしまうと、抗生物質が中途半端に効いた状態になります。そうなると抗生物質が効きやすい弱い細菌だけがいなくなり、効きにくい耐性菌が生き残り、耐性菌がさらにパワーアップしてしまうリスクが高くなります。
抗生物質は適切に使用すれば、効果は高く耐性菌も発生しにくいです。診察や検査の結果抗生物質が必要と判断される場合は、適切な種類・量・日数の抗生物質が処方されます。抗生物質が処方された場合はきちんと最後まで飲み切るようにしてください。
以上、抗生物質についてお話させていただきました。
最後までご覧いただきありがとうございました。