感染症

アルコール消毒の話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回はアルコール消毒についてお話させていただきます。新型コロナウイルスのパンデミック以降、いたるところに消毒用アルコールが置かれ、手の消毒を行う機会が増えました。しかし、アルコールは全ての病原体に対して効果があるわけではありません。アルコール消毒の原理や限界、正しい消毒方法などを知って、より効果的な感染予防を目指しましょう。

 

◎アルコールでなぜ消毒できるか

 一般的に消毒薬として使用されるアルコールはエタノールやイソプロピルアルコールなどで、エタノールはお酒に含まれる酔いを起こす成分として有名です。お酒に含まれるアルコール濃度は強いウイスキーなどでも40~50%程度ですが、この程度のアルコール濃度では消毒効果はあまりありません(「アルコール消毒だ!」と言ってお酒を飲んでも通常何も消毒できません)。一般的にはアルコール濃度80%程度の製品が消毒薬として使用されます。

 高濃度のアルコールには脱水作用やタンパク質の変性作用があり、細菌やウイルスの外側を守っている壁を壊すことで殺菌作用を発揮します。

 

◎アルコールで殺菌できない病原体

 一部の細菌やウイルスに対してはアルコールは殺菌効果が低いことが知られています。その理由として

・細菌の場合:一部の細菌は芽胞(がほう)といって、外側に厚い壁をつくります。アルコールはこの芽胞を破壊することが出来ないため、芽胞を形成する細菌に対する殺菌作用はあまり期待できません。食中毒の原因となるウエルシュ菌やセレウス菌などが芽胞を形成する代表的な細菌です。

 ・ウイルスの場合:アルコールはウイルスの外側のエンベロープという膜を破壊することでウイルスを殺す作用を示します。一方、エンベロープを持たないウイルスではアルコールの効果が乏しくなります。エンベロープを持たないウイルスの種類については後ほどご説明いたします。

 

◎アルコール消毒の効果が高いウイルス感染症

 エンベロープを持つ、アルコール消毒の効果が高いウイルスにより引き起こされる代表的な感染症を以下にお示しします。

・新型コロナウイルス感染症

・インフルエンザ

・RSウイルス感染症

・ヒトメタニューモウイルス感染症

・水いぼ(伝染性軟属腫):ポックスウイルスの感染症

・ヘルペスウイルス感染症

・麻しん(はしか)

・風しん

・おたふくかぜ

など

 

 一般的な「かぜ」を引き起こす原因ウイルスのうち、アルコールが効果を示すウイルスによって引き起こされるものはどれくらいあるのでしょうか?2013年の新潟県の病原体サーベイランス報告を見ると、インフルエンザなどはっきりとした診断名がついたものを除くかぜ症候群(上気道炎、下気道炎)のうち、約50%程度がパラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど、アルコールが効果的なウイルスによって引き起こされていることが分かります。

 ただ、注意が必要なのは、「アルコールが効果的なウイルス」であっても「アルコール消毒で感染が完全に防げる」というわけではないということです。感染様式には「空気感染」「飛沫(ひまつ)感染」「接触感染」などがあり、アルコールはこのうち接触感染を予防する効果しかありません。例えばインフルエンザのウイルス自体はアルコールに弱いですが、インフルエンザは接触感染だけでなく飛沫感染といって、咳やくしゃみなどで飛び散るしぶきをあびたり吸い込んだりすることによって感染が成立する感染経路もあるため、アルコール消毒のみでは感染予防効果は不十分です。アルコール消毒が感染予防に効果的なのは間違いありませんが、質の高い感染対策を行うためにはアルコール消毒に加えてマスクの装着や3密(密閉空間、密集場所、密接場面)の回避など、様々な感染予防法を組み合わせる必要があります。

 

◎アルコールが効きにくいウイルス感染症

 エンベロープを持たない、アルコールが効きにくいウイルスにより引き起こされる代表的な感染症を以下にお示しします。

・ノロウイルス性胃腸炎

・ロタウイルス性胃腸炎

・アデノウイルス感染症:胃腸炎やプール熱などの原因となります

・手足口病:コクサッキーウイルスやエンテロウイルスの感染症です

・ヘルパンギーナ:エンテロウイルスの感染症です

・りんご病(伝染性紅斑):ヒトパルボウイルスB19の感染症です

など

 

 胃腸炎の原因となるノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスと、代表者的な夏かぜである手足口病、ヘルパンギーナ、プール熱などにはアルコールの消毒効果は低いため、これらの感染症が流行していたり、感染している方と接触した場合などは特にアルコール消毒の効果を過信しない方が良さそうですね。

 

◎アルコールが効きにくいウイルスの消毒方法

 エンベロープを持たない、アルコール消毒が効果が低いウイルスの感染予防には

・石けんと流水による手洗いを行う

・環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用する

ことが効果的です。次亜塩素酸ナトリウム溶液による消毒方法は、島根県感染症情報センターのホームページにわかりやすく記載されているため、参考にしてください。

 

◎正しい手指消毒、手洗いの方法

 いくらアルコールが効きやすいウイルスでも、消毒のやり方が適切でないと十分な感染予防は出来ません。正しい手指消毒のポイントは

・十分な量の消毒薬を使用する:手のひらからあふれるくらいの量が適切です

・手のひらだけでなく、手の甲・指先・爪の間・指の間・親指・手首にもしっかりと消毒薬をすり込む

ことが重要です。厚生労働省のホームページに正しい手指消毒、手洗い方法が書かれているので、参考にしてください。

 

 

 以上、アルコール消毒についてお話させていただきました。

 最後までご覧いただきありがとうございました。

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