小児内分泌

夜尿症の話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回は夜尿症についてお話させていただきます。

 

◎どこからが病気か

 赤ちゃんが日中、夜間問わずおむつに排尿がみられるのは当然ですが、成長とともに日中のおむつが取れ、次第に夜間のおねしょも減ってきます。では、何歳までおねしょが続けば病院を受診した方がよいのでしょうか?

 日本夜尿症学会の「夜尿症診療ガイドライン2021」によると、「5歳以上で月に1回以上の夜尿が3か月以上続けば夜尿症と診断する」とされています。ただ、5歳を超えて夜尿がみられたら全員即精密検査や治療が必要となるわけではありません。

 どのタイミングで受診した方がよいか、どのような検査や治療が行われるのか、自宅でどのようなことに気を付けたらよいかなど、お話させていただきます。

 

◎夜尿症の割合は

 当然ですが、一般的には夜尿の頻度は年齢が大きくなるとともに減っていきます。

 2006年に香港の研究者たちが報告したデータを下にお示しします1)。

文献1)を改変

 夜尿がみられる割合は5歳で16.1%(約6人に1人)、9歳で3.14%(約30人に1人)でした。男児の方が女児より割合が高く、5歳児では男児の20.7%、女児の10.8%が夜尿症と診断されるという結果となっています。

【参考文献】

1)Yeung CK, et al. Differences in characteristics of nocturnal enuresis between children and adolescents: a critical appraisal from a large epidemiological study. BJU Int. 2006 May;97(5):1069-1073.

 

◎夜尿症の原因は

 夜尿は様々な要因が重なって起こります。

 主なものとして

・夜間につくられる尿の量が多い

・膀胱のサイズが小さくて尿をたくさん貯められない

・寝ている時に尿がたまっても目が覚めない

 のうち複数が関係していると考えられます。

 遺伝的な要因も大きく、両親のどちらかが夜尿症の既往があれば、子どもは既往がない両親を持つ子どもに比べて5~7倍夜尿になりやすく、両親ともに既往がある場合は約11倍夜尿になりやすいという報告があります2)。

 また、便秘だと夜尿症が治りにくかったり、可能性は低いですが他の様々な病気に伴って夜尿症が起こることもあります。特にいったん夜尿がおさまっていた時期があったのに、その後夜尿が再出現した場合は原因の精査が必要になることもあります。

【参考文献】

2)Järvelin MR, et al. Enuresis in seven-year-old children. Acta Paediatr Scand. 1988 Jan;77(1):148-153.

 

◎何歳まで夜尿が続けば受診した方がよいか

 一般的な夜尿症の治療開始の目安をお示しします。

 上記はあくまで目安ですので、夜尿が気になれば一度ご相談いただければと思います。

 

◎病院ではどのような検査を行うか

 尿の異常がないかを確認するために、尿検査を行います。また、腎臓や膀胱の異常がないか、便秘がないかを確認するために超音波検査(エコー検査)を行います。

 これらの検査で異常がみられたり、他の疾患が疑われる場合は血液検査を行うこともあります。

 

◎どのような治療を行うか

 夜尿症の治療を行ううえで、後でお話するように生活習慣の見直しは必要不可欠です。

 生活習慣の見直しを行っても夜尿症が改善しない場合、以下のような治療を行います。

 

【抗利尿ホルモン薬(ミニリンメルト®)】1日1回就寝前に内服

 睡眠中には抗利尿ホルモンといって夜間の尿量を減らすホルモンが脳から分泌されています。夜尿症の患者さんは抗利尿ホルモンを分泌する能力が未熟であることが多いため、飲み薬で補うと夜尿症が改善することが知られています。

 就寝前に抗利尿ホルモン薬を内服すると、睡眠中の尿量を減らすことが出来ます。薬の効果は朝になると切れるため、日中の活動には支障はありません。ただ、薬の効果が続いている間に水分をたくさん摂取すると、体の中の水分が過剰になってしまうので注意しましょう。

【アラーム療法】

 夜尿を感知するセンサーを寝る前にパンツやおむつに付けます。センサーが夜尿を感知するとアラームが鳴り、目が覚めます。このことを繰り返すことで脳が成長し、夜尿を起こしにくくなると考えられています。

 効果は高いのですが、自費で購入してもらわないといけないこと(ネット通販で5000円程度)と、家族も一緒に目が覚めてしまうことが難点です。

【その他の治療】

・抗コリン薬(飲み薬):膀胱のサイズを大きくしたり、膀胱の緊張をゆるめる効果があります。

・漢方薬(飲み薬):冷え性などがある場合、補助的に使用することがあります。

・便秘があると夜尿症が悪化することがあるので、便秘がある場合はその治療も並行して行います。

 

◎自宅で注意することはあるか

 先ほどお話したように、生活習慣の改善は治療の基本です。以下のようなことに気をつけましょう。

・夕食は早めの時間に摂取し、夕食時の水分摂取はコップ1杯程度、夕食から就寝までの水分摂取もコップ1杯程度にしましょう。

・冷えることで夜尿症は悪化します。なるべくあたたかい服装で寝るようにしましょう。おむつやおねしょパンツをして寝ると夜尿症が治りにくくなるという意見もありますが、実は本当はどうなのかよく分かっていません。ご家庭の事情で必要であれば使ってください。

・寝る前に排尿してから布団に入りましょう。

・夜尿をしてしまっても怒らないようにしましょう。

・夜間、無理にトイレに起こすと夜尿症の治りが悪くなることが知られています。宿泊行事などやむを得ない時以外は避けましょう。

 

◎どれくらいで治るか

 無治療の場合、夜尿症は年に10~15%程度の割合で自然治癒すると言われています。

 一方医療機関で適切に治療を行った場合、1年間で50%、2年間で70%、3年間で80%が治癒すると言われています。病院で治療を受けたからといってすぐに治るわけではないですが、治る可能性が何倍にも上がります。夜尿症は子どもの自尊心を低下させる原因ともなりますので、夜尿症がある場合は早めに治療を検討した方がよいでしょう。

 

◎宿泊行事への対応は

 宿泊行事中に夜尿が起こらないか、切実な問題ですよね。行事への参加はしたいけど、夜尿が心配で・・・という方は多くいらっしゃいます。ここでは、宿泊行事中の夜尿対策をお話します。

・夕方以降の水分摂取を控え、寝る前には必ずトイレで排尿してから寝る。

・宿泊行事の時のみ抗利尿ホルモン薬を飲む:宿泊行事の時にはじめて薬を飲むと効果が不安定になりやすいので、行事の2か月ほど前から病院で相談しながら薬の調節を行うことと良いでしょう。また、担任の先生にも薬を飲むことは伝えておきましょう。

・紙おむつをはく、もしくはパンツに尿漏れパッドを縫い付けてもらう:この場合、おむつの廃棄方法を事前に決めておきましょう。

・担任の先生に相談する:小学校高学年では平均してクラスに1人程度は夜尿症のこどもがいるので、通常先生も対応には慣れておられます。普段夜尿がみられる時間を事前に把握し、その1時間程度前に先生に起こしてもらいましょう。先生が夜間起こしやすいように、寝る場所の配慮(部屋の入口に近い方がよい)も必要です。

 

 

以上、夜尿症についてお話しさせていただきました。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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