小児内分泌

思春期早発症の話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回は思春期早発症についてお話させていただきます。

 

◎思春期とは

 思春期とは、こどもが成長し大人になっていく過程で、心身ともに急激に変化する時期です。知的や人格的な成長と、性的な成熟、身長の伸びがみられます。

 思春期は通常、男児では11~12歳頃から、女児では9~10歳頃から開始します(医学的には思春期が開始することを「思春期発来:はつらい」といいます)。この思春期が何らかの理由で早く開始してしまう疾患を「思春期早発症」といいます。

 

◎思春期発来のメカニズム

 思春期が何をきっかけに開始されるかは実はまだちゃんと分かっていません。ちょうどよい年齢頃になると、脳の視床下部(ししょうかぶ)という場所からゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)というホルモンが放出されるようになります。GnRHは視床下部の近くにある下垂体(かすいたい)という場所を刺激して、下垂体からゴナドトロピン(LH:黄体化ホルモン、FSH:卵胞刺激ホルモンの2つのホルモンを総称してゴナドトロピンといいます)というホルモンを分泌させます。このゴナドトロピンが男児では精巣にはたらいて男性ホルモン(テストステロン)を分泌させ、女児では卵巣にはたらいて女性ホルモン(エストロゲン)を分泌させます。この性ホルモンは各生殖器にはたらいて性的な成熟を促進したり、骨にはたらいて身長を伸ばし、成人のしっかりとした骨に成熟させます(下図参照)。

 

 

◎いつ、何があれば思春期早発なのか

 一般的に男児では、まず精巣やペニスが大きくなり、その後陰毛が生え、続いてわき毛、ひげ、声変わりの順で、女児ではまず胸が大きくなり、その後陰毛やわき毛が生え、その後生理が始まるという順で思春期が進行します。日本人の平均的な思春期開始年齢と、思春期早発症の基準を下にお示しします。

 この平均の数値は検索した限り一番新しいデータである1993年に報告されたデータ1)を使用していますが、年々思春期の平均開始時期は早まってきており、現在はこの平均の年齢よりはやや早いと考えてください。

【参考文献】

1)Matsuo N. Skeletal and Sexual Maturation in Japanese Children. Clin Pediatr Endocrinol 1993;2(Suppl1)1-4 

 

◎思春期早発症で何が困るか

思春期早発症には、主に3点問題があります。

① 低身長:性ホルモンは骨を成長させ、成長途中の小児の骨を成人の骨に完成させる役割があります。思春期早発症では、思春期が早く来て一時的に身長が伸びますが周囲より背が早く止まってしまうため、最終的には低身長になることが多いです。

② 社会的な問題:同級生たちと比べて体つきが大人っぽくなったり、毛が生えたりするので着替えや入浴の時など、羞恥心を感じることもあります。また女児の場合は周囲より月経が早くくるので、生理用品の問題なども生じます。男児では精通がくれば、女児では初経がくれば理論上は妊娠が可能となり、意図しない妊娠の危険性も考えられます。

③ 思春期早発症の原因となる異常の有無:思春期早発症は「特発性」といって、はっきりとした原因がないことが多いです。ただ、まれに脳腫瘍など腫瘍性疾患や卵巣機能異常などが原因であることもあるため、放置すると危険なこともあります。

 

◎思春期早発症の診察・検査

 思春期早発症の検査は、①思春期の進行の程度を確認する②原因となるような異常がないか調べる、の2つに分けられます。

① 思春期の進行の程度の確認

・視診など

・血液検査:ゴナドトロピン(LH、FSH)や性ホルモン、成長ホルモンの値などを検査します

・レントゲン:骨の年齢を測定することが出来ます。思春期早発症では実年齢より骨の年齢が上回っていることが多いです。当院はレントゲン撮影装置がないため、近隣の医療機関に検査を依頼いたします。

・LHRH負荷試験:後述します

②原因となるような異常の検索

・視診、聴診など

・血液検査:腫瘍マーカーの値などを検査します

・腹部超音波検査(エコー検査):主に女児で行います。卵巣に異常がないか確認します

・頭部MRI:脳腫瘍など、脳下垂体付近に異常がないか確認します。当院はMRI撮影装置がないため、近隣の総合病院に検査を依頼いたします。

 

◎LHRH負荷試験

 ゴナドトロピン(LH、FSH)や性ホルモンの値は日によってばらつきが大きく、一度の血液検査で正確に評価を行うのが難しいです。そのため、正確な評価を行うために「LHRH負荷試験」を行うことが多いです。この負荷試験はLHRHというゴナドトロピンの分泌を刺激する薬剤を点滴で投与して、薬剤に十分に反応してゴナドトロピンが分泌されるかどうかを確認する検査です。検査時間は2時間半~3時間程度です。詳しい検査の流れは診察時にご説明いたします。

 

◎思春期早発症の治療

 検査の結果、はっきりとした原因となるような異常が確認されれば、原因に対する治療が必要となります。はっきりとした原因のない特発性の場合は、リュープリン®という薬を4週間に1度注射(上腕に皮下注射:予防接種と同じような注射です)することで思春期の進行を遅らせる治療を行うことがあります。

<治療の効果について>

① 身長に対する効果:治療中は身長の伸びがゆっくりになりますが、骨の完成を遅らせることができるので、身長が伸びる期間が長くなります。ただ、治療を行うことで最終身長をどれくらい改善させるかどうかについては現時点ではっきりと分かっていません。一般的な目安として、2009年のヨーロッパ小児内分泌学会のガイドライン2)を参考にすることが多く、このガイドラインでは女児では6歳未満で発症した場合に治療が推奨されています。日本人と欧米人では人種的な差があるため、このまま当てはめるのは良くないと思いますが、年長児に治療を行っても治療効果は乏しいでしょう。当院では女児では7歳頃まで、男児では8歳頃までに思春期が開始した場合に最終身長の改善が期待できる可能性がある、と考えています。

② 社会的な問題に対する効果:リュープリン®治療を開始すると、それ以降の思春期の進行がゆっくりとなります。ただ、治療開始時点より胸が小さくなったり、毛が抜けたりすることは通常ありません。思春期の進行をどれくらいゆっくりにするか(全く進めたくないのか、周囲よりゆっくりなら進んでもよいのか、最低でも月経さえなくなればよいのか)については、お子さんや保護者の方と適宜ご相談のうえ治療の強さを調節いたします。

 羞恥心をどれくらい感じるかは個人差が大きいため、通院の手間と、お子さんの困り具合のどちらを重視するかで、治療を行わず自然の流れに任せる、という選択肢を取られる方も多いです

<治療期間について>

 最終身長の改善を目的とするのであれば、レントゲンを撮影して測定される骨の年齢が女児では12歳頃、男児では14歳頃まで治療を行うことが一般的です。

 社会的な問題に対して治療を行う場合は、ちゃんとした決まりはありませんが、女児では小学校5年生いっぱいまで、男児では小学校6年生いっぱいまで治療を行えば周囲の成長の程度と合わせることができるため、治療期間の目安とすることが多いです。

 治療中は4週間に1回のリュープリン®の注射と、3~6か月に1回程度の血液検査と、必要に応じてレントゲンや負荷試験の再検査を行うことが多いです。

<治療の副作用について>

 リュープリン®の注射開始後、女児であれば初回治療後1週間前後で月経様の性器出血がみられることがあります。他は大きな副作用を認めることは通常なく、治療終了後の二次性徴の発来や、将来的な妊娠・出産も無治療の方と比較して差がないことが報告されています3)。

【参考文献】

2)Carel JC, et al. Consensus statement on the use of gonadotropin-releasing hormone analogs in children. Pediatrics .2009. 123: e752-762.

3)Fuqua JS: Treatment and outcomes of precocious puberty: an update. J Clin Endcrinol Metab. 2013. 98: 2198-2207.

 

 

 以上、思春期早発症についてお話させていただきました。

 最後までご覧いただきありがとうございます。

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