感染症

マイコプラズマの話

 こんにちは、つま小児科クリニックのブログをご覧いただきありがとうございます。このブログではクリニックのことや、小児科に関係する色々なことをお話させていただこうと思っております。

 今回は最近流行しているマイコプラズマ感染症についてお話させていただきます。

◎マイコプラズマとは

 Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニエ:以下マイコプラズマ)は特に学童期において肺炎を引き起こす細菌の一種です。ニューモニエとは肺炎という意味のため、「肺炎マイコプラズマ」と呼ばれることもあります。マイコプラズマは気管や肺などの下気道に感染することが多いですが、自然治癒することも多く、名前の通りに必ず肺炎を起こすわけではありません。

 

◎マイコプラズマ肺炎はなぜ起こるか

 マイコプラズマは「マイコ」「プラズマ」という怖そうな名前がついていますが、実際はマイコプラズマの細菌自体が肺の細胞を破壊したり、強い傷害を与えることは通常ありません。マイコプラズマに対する免疫反応が暴走して過剰に起こることにより、自分の免疫が自分自身の肺組織などを攻撃してしまうことにより肺炎が起こると考えられています。そのため、もともとの免疫機能が十分ではない乳児では重症化することは比較的少なく、免疫機能がある程度しっかりしている(かといって成人ほど成熟していない)学童期で症状が強く出てしまうと言われています。

 少し古いデータにはなりますが、年齢別の肺炎の原因微生物に関する報告1)をお示しします。

 

 上記のように、年少児では肺炎の原因としてマイコプラズマの占める割合は少ないですが、6歳以上では肺炎の原因微生物の半分以上がマイコプラズマであることが分かります(ただし、ここでお示ししているデータはあくまで「肺炎に占める割合」であり、年少児と比較して年長児の方が「肺炎になる人数」が低いことには注意が必要です)。

【参考文献】

  1. 中村明:気管支肺感染症病因診断の問題点-EBMの時代を迎えて.日本小児科学会雑誌 2003;107:1067-1073

 

◎流行について

 1988年以前はマイコプラズマは4年おきに流行を繰り返しており、「オリンピック肺炎」とも言われましたが、平成になって以降はその傾向は崩れており、流行に一定の傾向はないようです。

 大阪府感染症情報センターによるここ10年間の大阪府でのマイコプラズマの報告数のデータをお示しします。

大阪府感染症情報センターHPより 

 2016年ころまでは比較的よく発生していましたが、以降は減少していることが分かります。新型コロナウイルスが流行した2020年以降はほとんど報告がみられていませんが、2024年になってから急激に流行がみられています。

 

◎症状について

 潜伏期間(感染してから発症するまでの期間)は2~3週間と長く、発熱、のどの痛みなどかぜ症状で発症し、徐々に咳が強くなってくることが多いです。咳は最初は痰のからまない乾いた咳、その後痰のからんだ咳に変化していくことが多いです。発熱は無治療であれば5日前後続くことが多いですが、個人差が大きく数日以内に解熱する場合や、1~2週間以上続く場合もあります。熱は朝に下がって、午後から高熱になることが多いため、朝に解熱していても油断は禁物です。咳は熱が下がってもしばらく続くこともあります(長い場合3~4週間以上になることもあります)。一方、マイコプラズマに感染しても無症状であったり、熱が出ずに咳だけが続く、ということもあります。

 呼吸器症状以外にもじんま疹など、かゆみを伴う発疹が起こることもあります。

 

◎予防や免疫について

 マイコプラズマは通常飛沫感染(感染者からの咳やくしゃみのしぶきを吸い込んで起こる)を起こすため、マスクの装着が感染予防に効果的です。

 マイコプラズマに一度感染するとしばらくはかかりにくくなりますが、免疫は長続きしないため数年たつとまたかかることもあります。大人にも感染することがありますが、小児ほど強い症状が出ないことが多いです。マイコプラズマに対するワクチンは現在存在していません。

 

◎診断について

 マイコプラズマ感染症では、胸のレントゲンを撮影するとしっかり肺炎になっている場合でも胸部の聴診では異常がないことも多く、検査での診断もインフルエンザや新型コロナウイルスに比べて困難です。

〇抗原検査

 抗原検査は通常咽頭ぬぐい液(のどの奥に綿棒をぐりぐりして検体を採取する)方法で行います。検査結果は15-20分程度で判明します。しかし、マイコプラズマは肺や気管など、のどよりかなり奥の方に存在するため、感染していてものどにマイコプラズマが十分存在せず検査で陰性となってしまう(偽陰性といいます)ことが多いです。咳がひどいと咳と一緒にのどに菌が上がってくるせいか、検査で陽性が出やすい印象があります。

〇LAMP法、PCR検査

 LAMP法やPCR検査はマイコプラズマの遺伝子を検出する検査方法で、抗原検査と比較して細菌の量が少なくても検出できることがメリットです。通常鼻咽頭ぬぐい液(インフルエンザ検査と同じ鼻ぐりぐり)で行います。院内で検査を行うことが可能な病院は限られており、検査会社に依頼して検査を行う場合検査当日に結果が出ないというデメリットがあります。

〇血液検査

 ・血清IgM抗体検出:微量の血液で検査を行うことが可能で、指先などから採血して検査を行うことが多いです。マイコプラズマ以外の感染症でも陽性になったり(偽陽性)、いったんマイコプラズマに感染すると長期間陽性が持続する(現在感染しているか以前感染したかの見分けがつかない)というデメリットがあるため、陽性が出たとしても本当にマイコプラズマに感染しているかどうか判断が難しいこともあります。

・PA法:数mlの血液を採取して検査を行います。通常肘や手の甲の血管から採血を行います。発症1週間以内には陽性となることが少なく、また検査結果が出るのに数日以上かかることが多いため、急性期の診断が出来ないこともあります。

 以上のようにマイコプラズマの診断を簡便かつ正確に行なうことは難しく、実際はマイコプラズマの特徴的な経過(高熱が続いたり、午前よりも午後に熱が上昇する。咳が徐々に悪化してくる)や血液検査の炎症反応(白血球数は増えないが、CRPが軽度上昇する)でマイコプラズマ感染の可能性が高いと判断して治療を行うことも多いです。

 

◎治療法について

 マイコプラズマ感染症と診断した場合や、疑わしい場合は抗生物質が処方されます。最近では抗生物質の効きにくいマイコプラズマも増えており、治療に難渋することもあります。通常以下の種類の抗生物質が処方されます。

・マクロライド系抗生物質(クラリス🄬、ジスロマック🄬など):マイコプラズマに対して一般的によく処方される抗生物質です。粉の場合は苦く飲みにくいことが多いです。

・ニューキノロン系抗生物質(小児の場合はオゼックス🄬):マクロライド系抗生物質で効果が十分得られない場合に処方されることがあります。

・テトラサイクリン系抗生物質(ミノマイシン🄬など):よく効くことが多いですが、8歳未満の場合は歯が黄色くなったり、歯のエナメル質がうまく形成できなくなるなどの副作用があるため通常処方されません。

※抗生物質が効くかどうかは一般的に「投与開始して48時間以内に解熱するかどうか」で判断されます。48時間以内に解熱が得られない場合、効果不良と判断して別の抗生物質に切り替えることが多いです。

 

 抗生物質に加えて対症療法といって、症状を緩和させる薬も処方されます。

・咳止め、痰切り、鼻水の薬

・気管支拡張薬(飲み薬、貼り薬)

・解熱剤(坐薬、飲み薬)

 抗生物質に対する治療に反応が不十分な場合はステロイドの注射や内服を行うこともあります。

 

 以上、マイコプラズマ感染症についてお話させていただきました。

 最後までご覧いただきありがとうございました。

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